記事一覧

【基町悠吉のつぶやき27】

先月96歳の女性、Tさんが施設に入所されました。
Tさんは長年、基町でお一人暮らしをされていました。
前任ケアマネが関わり始めたのは8年前、退院後の生活について病院から相談があったのがきっかけです。
その当時から重い記憶力の低下や食欲不振などが見られたため、
周囲は退院後すぐからのヘルパーの支援を提案しましたが、
もともと気丈で人を頼りにしないTさんは
『私は長年一人で暮らしてきた。歳はとったけど、自分のことは何でも自分でできます』と言われ拒否。
そこでTさんは元々“ご近所さんの立ち寄りの場”として自宅を提供されてきた生活歴を活かし、
前任ケアマネやヘルパーは介護事業所の支援者としてではなく“ご近所さんの一員”として関わりを開始し、訪問を続けて来られました。

しかし歳を重ねるにつれ、体力面や認知面はさらに低下。
私が担当を引き継いだ頃には認知症状は随分と進行しておられました。
食事や水分が摂れず、脱水症状になることも多々ありました。

そんなTさんですが、外出時には必ず、玄関の窓から顔を覗かせて、念入りに
『お便所さ~ん、冷蔵庫さ~ん・・・(ゴニョゴニョ)フンフンフン・・・』
と大きな目で火の元や電気を確認します。
周りに迷惑をかけてはいけないという思いからでしょう。
また訪問時には、来客の靴を揃え直したり、こたつに入ることを勧め必ず『足を伸べんさい』と楽にするように声を掛けて下さいます。
テーブルに置いてあるパンやお菓子を『食べんさい』『お茶を入れようか』なども言われます。
Tさんに食べてもらおうと差し入れしたお菓子さえくれようとします。
そして帰る際にはエレベーターが降りるまで見送ってくれ、その後は手すり越しに姿が見えなくなるまで手を振ってくれます。
これがまた遠くまで見えておられるんです。

Tさんのもともとの性分である“気遣いやおもてなしの心”は歳を重ね、認知症状が進行してもずっと変わりませんでした。
地域の方やヘルパーなどの“ご近所さん”が、Tさんの人柄を尊重してサポートして下さったので、
Tさんらしく在宅生活を送ることができたのではないかと感じています。
施設に入所された今も、Tさん宅の近くを通りかかると手を振って見送りをしてくれていたのを度々思い出します。