女性は長い間、建築士である夫の妻として懸命に尽くして来られたのだと思う。
家の中は清潔で、古民家調の家具や青で絵付けされた器など一つ一つ品よく並べられていた。縁側には風知草が風になびいていた。
女性は藍染の服をまとった華奢な方だった。
150㎝あるのだろうか?30㎏あるのだろうか?
何年かお付き合いしていくうちに、リハビリのほかにヘルパーさんに来てもらうことになった。
台所に他人が入るなどゆめゆめ思いもしなかった女性には「とんでもない!」話だった。
それが、年月が流れるうちになじんでいった。
ある時、女性が食事を摂れなくなり始めた。
看護師より、ワンプレートにして少量ずつ美しく並べたら食べてくれるかもしれないと、アイデアが出た。
ヘルパーさんが早速そうしてくれると、女性は少しずつ箸をつけてくれるようになった。
今まで女性とともに作ってきたことで女性の嗜好は把握されている。
それを、少し、盛り付ける。
この、細部に宿る優しさが、配慮とか、思いやりとかいうもので、
人を癒すのかなあ。