1.はじめに

 平成6年10月に予防接種法が改正され、ほとんどの予防接種が個別接種に切り替えられて4年以上が経過した。集団接種では不可能であったきめ細かい配慮がなされるようにはなったが、接種率は低下してきている。予防接種の対象となる年齢層は急性感染症に罹患する頻度が最も高い年齢層であり、繰り返す感染症のためにワクチン接種の機会を逸してしまうことも少なくない。急性感染症罹患後のワクチン接種に関しては、その安全性および確実性の点で、どれくらいの間隔をあけるのがよいかという研究はなされていない。日常臨床の場ではそれぞれの医師の裁量に任されているのが現状である。
 先行感染と予防接種の相互作用として、(1)ワクチン接種が先行感染を悪化させる、(2)先行感染がワクチン接種の副作用を増悪させる、(3)先行感染の合併症がワクチン接種の副反応と間違えられる(紛れ込み事故)、(4)先行感染がワクチン接種による抗体獲得を阻害する、という4つの可能性が考えられる。これらを未然に防ぎ、安全で確実なワクチン接種を行うための基準の必要性が痛感される。
 以下の基準はあくまでも臨床経験に基づいたものであり、学問的根拠には乏しいものであるが、先生方のご参考になれば幸いである。

2.一般的な基準

(1)発熱を伴う感染症

  1. 発熱が1日程度で解熱した場合は、他の症状が消失した時点から1〜2週間程度の間隔をあけて接種可。
  2. 発熱が3日以上持続した場合は、他の症状が消失してから2〜3週間程度経過した時点で接種可。

(2)発疹を伴う感染症の場合は、治癒後2〜3週間程度経過した時点で接種可。

(3)発熱や発疹を伴わないウイルス性および細菌性腸管感染症は、治癒後1〜2週間程度で接種可。

3.特に注意を要する感染症

  1. 麻疹:BCG以外のワクチンは治療後4週間以上経過した時点で接種可。
    麻疹罹患後は免疫能が3ヶ月ちかく低下し、その間ツベルクリン反応が陰性化することはよく知られており、BCG接種は慎重に行う必要がある。少なくとも麻疹治療後3ヶ月はBCG接種を控えるべきである。
  2. 風疹、水痘、流行性耳下腺炎:麻疹に準ずる。
  3. 突発性発疹症:治癒後3週間程度経過した時点で接種可
    HHV-6はヘルペス属ウイルスであり、CD4 (+)リンパ球に感染し、一時的に免疫能が低下することがある。保育所などの集団で保育されている子どもの場合は他の感染症に罹患しやすくなる傾向がみられることがあるため、注意を要する。
  4. 手足口病、無菌性髄膜炎、ヘルパンギーナ:治癒後3〜4週間程度経過した時点で接種可。
    いわゆる夏カゼのウイルスは心筋炎などを合併することもあり、慎重な経過観察を要する。
  5. インフルエンザ:治癒後3〜4週間程度経過した時点で接種可。
    時に重傷化することもあり、脳炎、脳症などの合併症も報告されているので、慎重な経過観察を要する。
  6. 溶連菌感染症:治癒後2週間程度経過した時点で接種可。
    急性胃炎やリウマチ熱の合併症も考慮し、発病後2週間のペニシリン系抗生剤投与後さらに2週間の間隔をあけることが望ましい。
  7. マイコプラズマ肺炎:治癒後2週間程度経過した時点で接種可。
    時に肺異常陰影が数週間持続する例もあるため、慎重な経過観察を要する。
策定委員
田中義人、籠崎祐二、川本功一
篠原秀久、杉原雄三、田中丈夫
西美和、西村真一郎、桑原正彦
新田康郎